東京高等裁判所 平成12年(ネ)2767号 判決 2000年12月27日
控訴人(被告) 株式会社オバタ
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 高木義明
被控訴人(原告) 株式会社東京三菱銀行
右代表者代表取締役 B
右訴訟代理人弁護士 小野孝男
同 近藤基
同 松田竜太
右訴訟復代理人弁護士 大石守史
主文
一 本件控訴を棄却する。
ただし、当審における請求の減縮によって、原判決主文第一項は、「控訴人は、被控訴人に対し、13億6,289万0,172円及びうち6,268万4,387円に対する平成12年11月29日から、うち9億2,363万6,520円に対する平成5年2月27日から、各支払済みまで年14パーセントの割合(年365日日割計算)による金員を支払え。」と変更された。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
二 被控訴人
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、被控訴人が、小幡工業株式会社(日本共立医科工業株式会社が、平成2年1月29日に商号変更をした株式会社、以下「新小幡工業」という。)に対して、3口の貸金債権を有していたところ、新小幡工業から営業譲渡を受けた控訴人は、(一) 新小幡工業の被控訴人に対する債務の引受をした、又は(二)商法28条の債務引受広告をした旨主張し、控訴人に対し、貸金残元金9億8,632万0,907円、未払利息合計4,263万8,764円及び確定遅延損害金3億3,393万0,501円の合計13億6,289万0,172円並びにうち残元金6,268万4,387円に対する平成12年11月29日から、うち残元金9億2,363万6,520円に対する平成5年2月27日から、各支払済みまで約定の年14パーセントの割合(年365日日割計算)による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお、右請求は、後記のとおり、被控訴人の当審における請求の減縮後の請求である。)。
一 前提事実
1(一) 小幡工業株式会社(以下「旧小幡工業」という。)は、被控訴人との間で、昭和61年2月27日、旧小幡工業が被控訴人に対する債務を履行しない場合には年14パーセントの割合(年365日日割計算)による遅延損害金を支払うなどを約定とする銀行取引約定書を締結した。
(二) 旧小幡工業は、被控訴人との間で、昭和62年10月9日、被控訴人から外国通貨による借入れを受けた場合には、借入債務の履行にあたっては、当該通貨を被控訴人所定の為替相場(予め為替予約が締結されている場合は、その予約為替相場)で換算した円貨で支払う旨及び利息の計算方法は年360日の日割計算による旨を約した。
2 日本共立医科工業株式会社は、平成2年1月29日、旧小幡工業を吸収合併し、小幡工業株式会社(新小幡工業)と商号を変更した。
3(一) 被控訴人は、新小幡工業に対し、平成4年4月28日、次の約定で、313万8,000USドルを貸し付けた(本件貸金①)。
(1) 返済期限 平成4年10月28日
(2) 返済までの利息額(利率年6.875パーセント) 10万9,666.56USドル
(3) 返済期限の為替予約相場 1USドル=135.13円
(二) 被控訴人は、新小幡工業に対し、平成4年6月30日、次の約定で、101万2,000USドルを貸し付けた(本件貸金②)。
(1) 返済期限 平成4年12月31日
(2) 返済までの利息額(利率年5.687パーセント) 2万9,418.27USドル
(3) 返済期限の為替予約相場 1USドル=126.07円
(三) 被控訴人は、新小幡工業に対し、平成4年8月31日、次の約定で、736万2,000USドルを貸し付けた(本件貸金③)。
(1) 返済期限 平成5年2月26日
(2) 返済までの利息額(利率年5.25パーセント) 19万2,178.87USドル
(3) 返済期限の為替予約相場 1USドル=125.46円
4 本件貸金①ないし③は、各返済期限において、次のとおりの円貨換算額に確定した。
(一) 本件貸金① 元金 4億2,403万7,940円
利息 1,481万9,242円
(二) 本件貸金② 元金 1億2,758万2,840円
利息 370万8,761円
(三) 本件貸金③ 元金 9億2,363万6,520円
利息 2,311万0,761円
5(一) 新小幡工業は、平成4年11月2日、東京手形交換所の取引停止処分を受けて、倒産した。
(二) 控訴人は、平成5年1月19日設立された株式会社であるところ、新小幡工業は、控訴人に対し、同年3月21日ころ、医療用器械器具等の製造販売の営業を譲渡した。
(三)(1) 控訴人と新小幡工業は、本店所在地及び役員が同一である。
(2) 控訴人の商業登記簿に記載された目的は、不動産の販売及び有価証券の取引の2点を除き、新小幡工業の目的と同一である。
(3) 新小幡工業の約40名の従業員のうち、数名を除く大部分が控訴人に採用された。
二 原審において、被控訴人は、(一) 控訴人は、被控訴人に対し、平成5年3月ころあるいは遅くとも同年末までに、新小幡工業の被控訴人に対する債務全額を引き受ける旨を少なくとも黙示的に約束した、(二) 控訴人は、文書(甲一〇ないし一二)を配布し、商法28条の債務引受広告をした旨主張し、控訴人に対し、本件貸金①ないし③の残元金合計11億3,473万3,304円、未払利息合計4,263万8,764円及び本件貸金①の確定遅延損害金1億7,554万9,560円(明細は原判決別紙損害金計算書のとおり)の合計13億5,292万1,628円並びに本件貸金①の残元金8,351万3,944円に対する平成10年12月4日から、本件貸金②の元金1億2,758万2,840円に対する平成5年1月1日から、本件貸金③の元金9億2,363万6,520円に対する平成5年2月27日から、各支払済みまで約定の年14パーセントの割合(年365日日割計算)による遅延損害金の支払を求めた。
原審は、被控訴人の債務引受の主張を排斥し、商法28条の債務引受広告の主張を認めて、被控訴人の控訴人に対する本件請求を認容した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。また、被控訴人は、当審において、前記のとおりその請求を減縮し(なお、本件貸金①の元金は0円、本件貸金①の確定遅延損害金の明細は別紙損害金計算書のとおりであり、本件貸金②の元金は6,268万4,387円である。)、控訴人は右請求の減縮に同意した。
したがって、本件の主要な争点は、(一)控訴人は、被控訴人に対し、新小幡工業の被控訴人に対する債務全額を引き受ける旨約したか否か、及び(二) 控訴人の各文書(甲一〇ないし一二)の配布は、商法28条にいう債務引受の広告に当たるか否か、である。
当事者双方の主張を含むその余の本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「二 事案の概要及び争点」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する当審における請求の減縮後の本件請求は理由があるものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「三 裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決17頁7行目の「被告ら」を「原告ら」と、20頁1行目の「スムーズ」を「スムース」と、21頁4行目の「認識して」を「認識致して」と、5行目の「いただきます」を「頂きます」と、22頁4行目の「努力いたします」を「努力致します」と改める。)。
控訴人は、本件各文書(甲一〇ないし一二)の配布は、商法28条にいう債務引受の広告には当たらない旨主張する。
しかしながら、本件においては、(一)(1) 新小幡工業は、平成4年11月2日、東京手形交換所の取引停止処分を受け、倒産したこと、(2) 他方、従業員の雇用と新小幡工業の取引先を確保し、新小幡工業の営業のうち医療用器械器具等の製造販売の営業譲渡を受ける目的で、平成5年1月19日、控訴人が設立されたこと、(3) そして、新小幡工業は、控訴人に対し、同年3月21日ころ、右医療用器械器具等の製造販売の営業を譲渡したこと、(4) 控訴人と新小幡工業とは、本店所在地及び役員が同一であり、控訴人の商業登記簿に記載された目的は、不動産の販売及び有価証券の取引の2点を除き、新小幡工業の目的と同一である上、新小幡工業の約40名の従業員のうち、数名を除く大部分が控訴人に採用されたこと、(二)(1) 控訴人は、被控訴人を含む金融機関及び取引先に対し、同年3月10日付けで、「業況報告書並びにお願い」と題する控訴人作成名義の文書(甲一〇、以下「甲一〇文書」という。)を配布したこと、(2) 甲一〇文書には、① 財産目録として、新小幡工業の同年1月20日時点の積極財産(資産)及び消極財産(負債)が記載されているところ、各債権者(なお、「a銀行」は被控訴人を示すものである。)に対する借入金等が掲記されていること、② 今後の見通し及び計画として、「きたる平成5年3月21日以降をもって、名実共に新会社での営業を行い、事故発生以降の旧債を新会社が引継ぎ、金融機関により減免して頂きました利息に関しましては、新会社が責任を以て履行致します。元金返済につきましても新会社の利益の範囲内で返済を続けます。現時点におきましては、元金返済の金額を明確に確定できませんが、現在よりは必ず改善しうると確信致しております。」と記載されていること、また、その末尾には、依頼文として、「手前勝手なお願いばかりで誠に申しわけ御座いませんが、何卒ご支援とご鞭撻のほど、伏してお願い申し上げます。」と記載されていること、③ 新小幡工業代表者A(控訴人の代表者と同一人物である。)名義の債権者あての弁済計画案が添付されていること、(三)(1) 控訴人は、被控訴人を含む金融機関及び取引先に対し、同年11月15日付けで、「業務報告書並びにお願い」と題する控訴人作成名義の文書(甲一一、以下「甲一一文書」という。)を配布したこと、(2) 甲一一文書には、① 財産目録として、新小幡工業の同年9月20日時点の積極財産(資産)及び消極財産(負債)が記載されているところ、各債権者(なお、「a銀行」は被控訴人を示すものである。)に対する借入金等が掲記されていること、② 「私共は株式会社オバタと日本共立医科工業株式会社とは一体として認識致しておりますので、以下(今後共)の報告は両者連結の報告とさせて頂きます。」、「全社一丸となり推進し結果、金融機関への返済を1円でも多く履行したいと頑張ってまいります。」と記載されていること、また、懸案事項の今後の見通し及び計画として、「借入金の返済にあたりましては、現在の返済額で勘弁して頂き年1度の決算確定後の利益の状況に応じて平成6年5月20日までに追加返済させて頂き度、また、利益は色々な科目に姿を変えておりますので資金繰りも勘案致し、現状で出来る最大限の返済額を確定すべく努力致しますので、よろしくお願い申し上げます。」と記載されていること、(四)(1) 控訴人は、被控訴人を含む金融機関に対し、平成7年2月15日付けで、「返済金の見直しについて」と題する控訴人作成名義の文書(甲一二、以下「甲一二文書」という。)を配布したこと、(2) 甲一二文書には、① 「従来よりの返済金額に追加して、別紙のごとく返済させていただき度、ご了承の程よろしくおねがいいたします。」と記載されている上、② 新小幡工業の各金融機関(なお、「a銀行」は被控訴人を示すものである。)に対する借入金債務の返済予定表が添付されていること、(五) 控訴人は、被控訴人に対し、控訴人の預金口座から弁済資金を払い戻して弁済するという方法で、原判決別紙返済表記載のとおり、平成5年5月6日から毎月新小幡工業の借入金債務の弁済を行っており、この金額は、平成10年末時点で、合計2億7,030万円となっていること、などを認めることができることは原判決が認定するとおりであって、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、これらの事実によれば、新小幡工業は、控訴人に対し、同年3月21日ころ、医療用器械器具等の製造販売の営業を譲渡したこと、及び甲一〇ないし一二文書は、その記載内容に照らすと、単なる取引先に対する挨拶状ではなく、営業を譲り受けた新小幡工業の営業によって生じた債務について控訴人がその債権者に対して直接の弁済責任を負う旨を表示していることは明らかであって、控訴人による金融機関等に対する甲一〇ないし一二文書の配布は、商法28条にいう債務引受の広告に当たると解すべきである。他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、控訴人の前記主張は失当であって、被控訴人の控訴人に対する当審における請求の減縮後の本件請求は理由がある。
第四結論
以上によれば、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 秋武憲一 小池一利)
<以下省略>